ストレスと唾液
はじめに
厚生労働省の人口動態系統資料によると、1997年から1997年までは年間20000−25000人で推移していた自殺者は、1998年に一気に三万人を越え、それ以降三万人前後で推移している。このことからも、自殺に至る一因であるストレスが原因の神経精神疾患は、既に深刻な社会問題となったことが疑われる。さらに、ストレスは、生活習慣病などの様な疾患の原因のひとつと考えられている。
1) 唾液マーカーでストレスを測る(論文1)
そこでストレスの状態を遺伝子レベルで診断し、疾患の予防や治療につなげようとする試みが始まっている。これは、いわゆる慢性ストレスの検査のことである。一方で、ひとが日常生活で感じているストレス(急性ストレス)の大きさを客観的に把握する試みもなされている。その目的の1つは、自らのストレス耐性やストレスの状態をある程度知ることによって、うつ病や慢性疲労症候群などの発症を水際で食い止めようという予防医療である。もう1つは五感センシングが挙げられる。五感センシングとは、味覚や臭覚などの刺激で人にどの様な感情が引き起こされるかということである。これは、快適さを新しい付加価値とした製品やサービス、あらゆる産業分野で利用することができる。この五感センシングを可能にするには、ひとつの方法として、唾液に含まれるバイオマーカーを用いた定量的なストレス検査がある。これから、唾液で分析できるバイオマーカーを中心に、ストレス検査との関係述べていきたい。
まずバイオマーカーについて説明します。人体に加えられた様々な刺激は、感覚器官で検知され、末梢神経を介して中枢神経に伝えられる。脳では、それらの刺激が認知され統合される。刺激に対応するために脳から発せられた指令は、交感神経系や内分泌系を介して全身に伝達され、各器官の亢進や抑制などの生体反応として現れる。このような、人が発する生体反応の情報を、血液、間質液、唾液、尿などの生体サンプルに含まれる化学物質の濃度から読み取り、数値化・定量化・した指標を「バイオマーカー」と言う。また、交感神経系や内分泌系に直接・間接的に関与するバイオマーカーでは、ストレッサーの強度に応じて濃度が顕著に変化するものがあり、これを「ストレスマーカー」という。ストレスマーカーとしては、コルチゾール、ノルアドレナリン、唾液アミラーゼ、セロトニン、ドーパミンなどの交感神経系内分泌系の生化学物質が挙げられる。
特に、ストレス研究において、コルチゾールやノルアドレナリンはゴールドスタンダードとして用いられてきた。これらは、血液中においてのストレスマーカーである。
次に、唾液アミラーゼとストレスについて説明します。交感神経系の新しい指標として、唾液腺におけるα−アミラーゼ(唾液アミラーゼ)分泌に着目している。唾液アミラーゼは、交感神経−副交感神経系(SMAsystem)すなわちノルアドレナリンの制御を受けている。さらに、唾液アミラーゼ分泌は,SMAsystem
だけでなく直接神経作用による制御系統も存在する。この直接神経作用により唾液アミラーゼ分泌が亢進される場合には、応答時間が1−数分と短く、ホルモン(ノルアドレナリンなど)作用に比べて、格段にレスポンスが速い。すなわち、唾液アミラーゼを利用すれば、唾液腺が低濃度のノルアドレナリンの増幅器の役割を果たすだけでなく、コルチゾールよりも迅速に反応するすぐれた指標となり得る。このストレスマーカーとしての唾液アミラーゼの反応を利用して作られたものが、「交感神経モニタ」である。これは唾液アミラーゼの基質としてクロモゲンを用い、このクロモゲンをどれだけアミラーゼが加水分解できたかで唾液アミラーゼの酵素活性がどれ位あるかを測ることによりストレスの度合いが分かる装置である。また唾液アミラーゼは、他のストレスマーカーと比べていくつかの利点がある。まずは、採血不要で、サンプルの採取による精神的・肉体的苦痛が少なくない、ということである。二つ目に、即時性が挙げられる。三つ目に随時性である。このように、ストレスマーカーとして、唾液アミラーゼは最も有用である。
2) 精神的ストレス及び自己効力感が歯周病に与える影響に関する臨床評価(論文2)
生活習慣病のひとつである歯周病の発症と進行には、局所の細菌感染と全身の生体防御能との相互作用が関与するといわれている。ストレスにより生体の神経系、内分泌系、免疫系は影響を受け防御機能が低下すると考えられている。なので、歯周病患者の多くは、中高齢者で、社会的責任を伴う仕事を多く任されることや、配偶者との死別などのライフイベントにより、多くのストレスを受け、生体防御機能の低下を引き起こしている可能性が、考えられる。今回、「ストレス」及び「自己効力感」が歯周病患者に与える影響を調べるために、歯周病患者のストレスを客観的(心理テストPOMS法採用)、定量的(唾液CgA濃度法採用)に評価し、さらに意志的行動を評価するために自己効力感を検査し、歯周病の臨床パラメーター(PD、BOP、PCR)との関連を検討した。なを、自己効力感とは、「なんらかの課題を達成するために必要とされる技能が有効的であるという信念をもち、実際に自分がその技能を実施することができるという確信のこと」と定義されている。要は、意志、やる気、忍耐といったことである。
まず、ストレスの評価を行った。評価は、心理テスト(POMS)の結果ならびに唾液中のクロモグラニンA(CgA)の濃度により行う。唾液CgAは生体が精神的ストレス負荷時にはコルチゾールより先行して上昇し、負荷後は早期に減少するものいわゆるストレスマーカーの一種である。心理テスト(POMS)は個人の気分状態や感情を6つの領域、「緊張−不安」「抑うつ−落ち込み」「怒り−敵意「活気」「疲労」「混乱」を簡便に調査できる自己記入式のテストである。このテストによって各項目に1つでも当てはまれば「ストレス有群」とし、どれも当てはまらない人は「ストレス無群」として、実験対象者をわけることができる。そして唾液CgA濃度を「ストレス有群」と「ストレス無群」に分けて測る。するとCgA濃度は「ストレス有群」は、「ストレス無群」に比べ高い値を示した。これによりストレスと唾液CgA濃度は比例関係にあることがわかる。
また自己効力感の測定も「ストレス有群」と「ストレス無群」とに分けて、心理テストの特性的自己効力感尺度を使用し評価して測定した。この評価の仕方として、「行動を起こす意志」「行動を完了しようと努力する意志」「逆境における忍耐」などから構成される項目に対して、「そう思う(5点)」「まあそう思う(4点)」「どちらとも思えない(3点)」「余りそう思わない(2点)」「そう思わない(1点)」として単純計算し評価するといったところである。すると評価の結果は、自己効力感は、「ストレス有群」に比べ「ストレス無群」の方が高かった。これよりストレスと自己効力感は反比例であることがわる。
次に、歯周病パラメーターとストレレス尺度(POMSと唾液CgA濃度)、自己効力感との関係について述べたい。まず、歯周病パラメーターのPD(歯周ポケットの深さ)とPOMSとの関係は検査より、「ストレス有群」は「ストレス無群」に比べ、PDは、有意に高い値を示した。又、CgA濃度もPDと相関関係にありCgA濃度が高いほど、PD値が高かった。自己交力感と歯周病パラメーター(PCR:ヘルペスなどの班点をつくる支配値)との関係は、自己効力感の低い群は、高い群に比べ有意に低い値を示した。
これらの結果より、ストレスがある人は歯周病に疾患しやすく、さらに自己効力感が、口腔衛生状態に影響を与える可能性が、示唆された。
3) 選んだ論文の内容と、ビデオの内容考察
現代はストレス社会と言っても過言ではありません。ストレスはわたしたちが生きていく中で常に付きまとっているもので、切っても切り離せないものであります。ストレスの原因としては、職場環境の悪化や、コミュニケーションの低下、人付き合いの悩み、社会や将来に対する不安、加重労働、責任からの圧迫感、息通り感などの精神的な悩みがほとんどです。ストレスとは、 厳密には、脳下垂体から生成される副腎皮質時劇ホルモンの分泌を促すような内外の刺激である「ストレッサー」よって引き起こされる一連の生体防御反応のことで、大きく分けて、急性ストレスと慢性ストレスに大きく分けることができる。急性ストレスは一時的なもので、主に慢性ストレスは、特に疾患との結びつきが強いことで知られている。また、ストレスは私たちの体に適度な緊張感をもたらすため、ストレスはわたしたちにとってある程度は必要なのである。しかし、逆に慢性的なストレスは、わたしたちの生態を維持しているホメオスタシスを形成する要素である「内分泌系」や「自律神経系」に多大なる悪影響を及ぼし、加えて、「免疫系」に対しても抑制的に働くことがわかっている。これは、今回の課題である歯周病とストレスとの関係を調べ、十分にわかることができた。さらに、過剰なストレス状態に長い期間おかれると、細胞の異常な遺伝子発現を誘発し、「アポトーシスや」、癌細胞への変異を引き起こすことが、知られている。 これらのストレスに対して、わたしたちはいかに関わっていくかが、今最も注目されていることであり、疾患にかかる前に予防や治療を行っていくことがとても重要になってくる。その予防方法としては、遺伝子レベルでストレスの大きさを診断したり、今回調べた唾液アミラーゼなどのストレスマーカーによって簡単に検査ができる。このように、自分の今の精神状態を知る上でストレスの度合いを知ることは、ストレス疾患を予防したり診断する上で非常に重要であり、また医学的利用のみでなく、視点を変えれば日常生活から産業製品に至るまで、私たちのQOLの向上に役立てることが期待できる可能性がある。
4)まとめ
以上から、ストレスは、人体の恒常性や免疫力の維持に対して非常に影響を及ぼし、そのため過剰なストレスは、人体に悪影響を及ぼしており、、ストレスを血中や唾液中にあるホルモンや酵素などのストレスマーカーによって定量的に測ることができ、これにより、ストレス疾患を予防することに役立てることができる、ということがいえる。